コントローラーが先生に。知的障害とASDの息子がゲームで育む「生きる力」

「またゲーム…?」

テレビの前でコントローラーを握りしめ、画面に夢中になる小学2年生の息子の背中を見ながら、最初思っていました。

軽度知的障害と、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けている息子。時間を忘れて熱中するのがゲームでした。親としては、「もっと他のことに興味を持ってほしい」「外で体を動かしたほうが…」と、焦りや不安を感じます。

しかし、ある日ふと、彼のプレイする様子をじっくりと観察してみたのです。そこにいたのは、ただ遊んでいるだけの息子ではありませんでした。何度も失敗し、考え、挑戦し、そして歓声をあげる、真剣な「冒険者」の姿でした。

この記事では、アクションRPGという、ともすれば敬遠されがちなゲームが、息子の「生きる力」をどう育んでくれているのか、私たちの体験談をお話ししたいと思います。

【長男の紹介(小学校2年生(この記事の当時は1年生)、特別支援学級所属。)】

軽度知的障害(IQ64)と自閉スペクトラム症(ASD)を抱えています。

得意な事:弟や小さな子達の面倒見がいい、早く寝る、自分で準備する、宿題をやる、好き嫌いが少なく結構色々食べる、モノを組み立てる、ゲームが上手。

苦手な事:発語が遅かったのもあり、まだ言葉での表現や発音は苦手。勉強が嫌い。予定外の事が起こるとなかなか立ち直れない。

目次

アクションRPGが引き出す、未来につながる5つの能力

失敗から立ち直る力「レジリエンス」

ゲームの中では、失敗はつきものです。特に息子が好きなアクションRPGでは、強いボスに何度も何度もやられてしまいます。 しかし、ゲームオーバーの画面を見ても、「あー、もー!」と悔しがるだけで、すぐに「もう一回!」とコントローラーを握りしめます。

この「レジリエンス(精神的な回復力)」、つまり逆境から立ち直る力は、彼にとって大きな成長でした。日常生活でも、宿題の難しい問題につまずいた時、以前なら「わからない!できない!むずかしい!」とすぐに諦めていました。

ただ、「〇〇君(ゲームの主人公の名前)は負けても何度も立ち上がってたよ?もうちょっとやってみない?」と切り出してみたら「うーん…」と考え込み、粘り強く取り組む時間が増えたのです。

ゲームの中での「負けても終わりじゃない」という経験が、現実世界での失敗への耐性を育ててくれました。

考えて試す「問題解決能力」と「仮説検証能力」

アクションRPGには、ただ敵を倒すだけでなく、ダンジョンの謎を解いたり、ボスの弱点を見つけたりする要素が満載です。

息子は、ボスの攻撃パターンをじっと観察し、自分なりの攻略法(仮説)を立てて実行(検証)します。ダンジョンで行き詰まった時も、「このレバーを動かしたらどうなる?」「あそこの壁、色が違うから壊せるかも」と、様々な可能性を試しながら正解を探します。

これはまさに、「問題解決能力」と「仮説検証能力」を鍛える実践トレーニングです。物事を多角的に捉え、論理的に答えを導き出すプロセスを、彼は遊びながら学んでいるんだということに気が付きました。

見て、判断し、動く「実行機能」と「ビジョンスキル」

敵の攻撃が画面いっぱいに広がる中、息子はキャラクターを巧みに操作し、それを避けていきます。

これは、敵の動きを「見て」、それが自分に当たるか「判断し」、回避ボタンを「咄嗟に操作する」という、高度な情報処理の結果です。脳の司令塔である「実行機能」や、目で見た情報を処理する「ビジョンスキル」が、この一瞬のプレイの中でフル活用されています。

最初は間に合わずにダメージを受けていた操作が、繰り返すうちに驚くほどスムーズになっていくのには目を見張るばかりです。何度も何度も繰り返していくことがいいトレーニングになっているのではないかと思います。

物語で育む「語彙力」と「心の理論」

息子は、ゲームのストーリーを通じて、たくさんの言葉を覚えました。「これどういう意味?」と尋ねてきます。文章を読む速度も上がってきました。

さらに重要なのが、キャラクターの心情理解、いわゆる「心の理論」を育むきっかけになったことです。ASDの特性上、他者の気持ちを推し量ることが苦手な息子ですが、ゲームの登場人物のセリフや行動から、「この主人公は、どうしてこんなことをしたんだと思う?」と親子で話し合う時間は、彼の世界を広げる貴重なコミュニケーションになっています。

「できた!」が自信になる「自己効力感」

何時間も、時には何日もかけて強大なボスを倒した瞬間、息子は「やったー!」と叫び、満面の笑みでガッツポーズを見せます。

この「自分の力で困難を乗り越えた」という強烈な成功体験が、「自己効力感(自分ならできる、という感覚)」を何よりも育ててくれました。

ゲームで得た自信は、現実世界にも良い影響を与えています。「失敗(ゲームオーバー)してもいいからまずやってみる」。現実の生活でも、少しずつ新しいことに挑戦する勇気を持つことができるようになりました。

ゲームと上手に付き合うための「我が家のルール」

ただ、もちろん野放しにしているわけではありません。ゲームの力を最大限に引き出すために、私たちはいくつかのルールを決めています。

時間管理は一緒に

「ゲームやめなさい!」と頭ごなしに言うのではなく、「この赤いメータが無くなったらセーブしようね」とタイムタイマーを見せ、見通しを持たせます。あるいは「このダンジョンをクリアしたら終わりにしよう」と、キリの良い目標を一緒に決めることも効果的です。

個人的な考え方ですが、ゲームをやらせずにやるべき事をやらせるよりは、遊ぼうと思えば遊べる状況で自分をコントロールしてやるべきことをやる、遊びもやる、というセルフコントロールを身に着けさせた方がいいと思っています。

プロセスを褒めるポジティブな声かけ

「またやられてるの?」ではなく、「今の避け方うまかったね!」「諦めないで偉いね」と、結果だけでなく挑戦している姿勢を具体的に褒めるように心がけています。

【まとめ】ゲームは、子どもの「好き」から「伸びる」を引き出す魔法の杖

かつて私が不安の目で見ていたテレビの画面は、今では息子の成長を見守る魔法の窓になりました。

もちろん、ゲームが全てを解決するわけではありません。しかし、使い方や親の関わり方次第で、それは子どもの能力を多角的に伸ばす、非常に有効な「療育ツール」になり得るのだと確信しています。

アクションRPGが優れたツール、というよりは息子にとってアクションRPGが合ったということだと思います。

大切なのは、子どもの「好き」という純粋なエネルギーを否定せず、その世界に寄り添ってみること。もし、あなたのお子さんが何かに夢中になっているなら、その世界を少しだけ覗いてみませんか。そこには、私たちがまだ知らない、子どもの可能性という宝物が眠っているかもしれません。

中度知的障害&ASD次男、夏祭りにて

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